審美性や機能性に優れているインプラントですが、残念ながら全ての人に行える治療ではありません。
入れ歯やブリッジと違い外科的な治療になるため、
全身的な疾患の有無や顎の骨の状態などによって手術ができないこともあります。
また全身疾患や持病の中でもインプラント治療が禁忌な疾患と、治療不可ではないが注意が必要な疾患がありますのでご紹介いたします。
全身的な問題
インプラント治療が禁忌な疾患
全身疾患や持病の中でもインプラント治療が禁忌な疾患と、治療不可ではないが注意が必要な疾患があります。
- 免疫不全
膠原病などでステロイドを服用していると傷口が治りにくいだけでなく、骨とインプラントの結合に影響を及ぼすことがあります。
- 放射線治療が必要な疾患
- 白血病などの血液疾患
- チタンアレルギー
インプラントはチタン製のためアレルギーの方には使用できません。金属を使用しないジルコニアインプラントであれば金属アレルギーは起こりません。
疾患ではないが禁忌
- 未成年者
顎の骨の成長が止まる前にインプラントを埋入してしまうと、歯とインプラントが当たり健康な歯に影響を及ぼす可能性があります。顎の骨の成長が完了する20歳前後まで待ちましょう。
- 妊娠中の方
レントゲン撮影や、麻酔、術後に抗生物質や痛み止めの服用があるため、母子の安全に配慮し妊娠期間中のインプラントは避けるべきです。
注意が必要な疾患
- 高血圧
高血圧の方は手術時に普段より血圧がさらに上がり、めまい、動悸、吐き気が生じることがあります。内科を受診し、コントロールされている状態であれば問題ありませんが、当院の場合、手術前の最高血圧が160を超える場合は手術は行っておりません。また、静脈内鎮静法麻酔を併用することによって、血圧を安定させ安全な手術を行うことが可能ですのでご相談ください。 - 糖尿病
治療されていない糖尿病は傷口の治りが悪くなるため、インプラント治療や外科治療は禁忌と言われています。ただし医科的な治療でコントロールされている糖尿病(HbA1Cが7%以下)の場合はインプラント治療が可能だと考えられています。 - 骨粗鬆症
骨とインプラントの結合が減少する可能性があります。しかし骨粗鬆症だからインプラントが行えないというわけではありません。骨粗鬆症の方にはBP製剤由来のお薬「ビズホスホネート」を投与されていることがよくあります。ビスホスホネート製剤は、インプラント後の顎骨壊死を起こすリスクがあるため、インプラントに限らず口腔外科の手術は避けた方が良いでしょう。 - 心疾患
上記の疾患の方がインプラントを希望された際は内科の担当医と対診し、身体の状態や服薬状況を確認した上でインプラント治療可能か判断します。
局所的な問題
インプラント治療は土台となる人工歯根を顎の骨に埋め込むため、顎の骨に一定の厚みが必要です。生まれながらに顎の骨が薄かったり、歯周病や根の先に溜まった膿によって顎の骨が喪失している場合はインプラント手術の際に注意が必要です。
インプラントの手術中に太い神経を損傷してしまうと術後に麻痺が残ったり、血管を損傷することによって大量出血を招く可能性があります。こういったことが起きないように術前に3DCTを用い、重要な神経や血管の位置を把握することが重要です。あまりに神経や血管を損傷するリスクが高い場合はインプラント自体を諦める必要があります。
これは私の個人的な見解ですが、神経や血管を損傷するリスクが高い場合においてはインプラント手術を無理やりする必要はないと思っています。例えば癌などその手術をしないと体の健康が損なわれるような場合であれば、多少のリスクをとってでも手術を行うべきですが、インプラントは必ず行わないといけない手術ではありません。
インプラントを入れたことによって神経麻痺などが起こり、その後の咀嚼機能やQOLが低下してしまっては本末転倒です。まずは安全第一で手術を行うことが大事なのではないでしょうか。
インプラント手術をする際に
気をつけなくてはいけない神経、血管について
下歯槽神経
下の顎の骨の中にある感覚神経
主に顎や頬の神経をつかさどり、親知らずの抜歯やインラントの埋入などで傷つけると麻痺がおきることがあります。
オトガイ孔
下顎の小臼歯付近にある下歯槽神経の出口
舌動脈
下顎の内側(舌側)に走る大きな動脈
上顎洞
頬にある空洞で副鼻腔のうちの1つ。ここに感染を起こすと上顎洞炎(蓄膿症)になります。
後上歯槽枝
上顎にあり、上顎、側頭部、頬部、鼻腔の知覚をつかさどる神
静脈叢
咀嚼筋の1つである翼突筋(こめかみのあたり)の近くにある静脈の集まり
神経や血管に近い場合は上記に記載した通り無理にインプラント手術を進める必要はないと考えています。
ただし上顎洞が近い場合や骨の厚みが薄い場合は手術によって骨の厚さを回復することができます。インプラントを埋入するための骨を再生させるGBR法や上顎洞底挙上術、インプラント周囲の歯肉や粘膜を再生させるCTGやAPFなど現在の歯科治療はかなり進歩しており、10年前だったらインプラント治療が無理だった症例も特殊な手術をすることによってインプラントが可能になっています。
喫煙はインプラントの成功率に影響するの?
タバコが歯周病の原因となることは知られていますが、インプラントにも影響があるのでしょうか?
その答えとなる文献をご紹介します。
・歯周病がある喫煙者のインプラントの喪失率は、非喫煙者の2.6倍である。(文献1)
・インプラント周囲炎を発症する可能性は、喫煙者は非喫煙者に比べ3.6~4.6倍高くなる。さらに、喫煙者で歯周病がある患者様では、インプラントの失敗やインプラント周囲の骨欠損が起きる可能性が高くなる。(文献2)
文献1 Baelum V, Ellegaard B . Implant survival in periodontally compromised patients. J Periodontol 2004.
文献2 Heitz -Mayfield LJ , Huynh – Ba G . History of treated periodontitis and smoking as risks for implant therapy . Int J Oral Maxillofac Implants 2009 .
ここからは私見となりますが、様々な研究からインプラントや歯周病に対して、喫煙が悪影響を及ぼす可能性は高いと考えられています。しかしそれがどの程度の影響を及ぼすのかは、まだ正確な答えはありません。全身の健康を考えるのであれば、禁煙していただくのが望ましいです。しかしどうしてもタバコが辞められないという患者様もいらっしゃいます。私は通常のインプラント手術であれば喫煙者にも行いますが、GB Rやサイナスリフトなど骨の移植を伴う手術は喫煙者は成功率が著しく低下しますので避けるようにしています。